風の詩(うた)

ジェジュンとAB6IXを中心にK-POPの音楽レビューを書いています。読書レビューは過去記事です。

「性に目覚める頃」室生犀星 レビュー

室生犀星といえば

「ふるさとは遠きにありて思ふもの

そして悲しくうたふもの」

という詩を思い出しますが
これは桃屋のCMで聞いたことがあるという方も多いかもしれませんね。


この詩は「小景異情(その二)」に収められていますが続きはこうです。

 

   ふるさとは遠きにありて思ふもの
   そして悲しくうたふもの
   よしや
   うらぶれて異土の乞食となるとても
   帰るところにあるまじや
   ひとり都のゆふぐれに
   ふるさとおもひ涙ぐむ
   そのこころもて
   遠きみやこにかへらばや
   遠きみやこにかへらばや

 

犀星は、明治22年(1989年)石川県金沢で、私生児として生まれ、生まれてすぐにお寺に捨てられます。

正式には7歳でお寺の養子となりますが、養母となる義父の内妾にひどい折檻を受け、学校でもいじめられ、高等小学校は3年でやめ、裁判所の給仕として働くうちに、俳句を作る上司の影響で自らも創作に目覚めていったようです。

主幹北原白秋らと並んで犀星の詩は沢山の楽曲として残り現在まで歌いつがれています。

犀星は小説家というよりは詩人として親しまれてきたように思いますが、後年、芥川龍之介と親交を深め刺激しあいながら多くの小説を発表し、文藝賞も数多く受賞しています。

性に目覚める頃」「杏っ子」「あにいもうと」等は、誰もが目にしたことがある作品ではないでしょうか。

後年、芥川賞の選考委員も務め、昭和37年肺がんのため亡くなっています。


さて、「性に目覚める頃
実体験をもとに書かれた自伝的小説です。

学校をやめ、お寺の奥で詩を書きながら気ままに暮らす17歳の私。私は、時折義父のお相伴をする「茶道」のわびさびをすでに理解し始めている、成熟した面も持ちながら、毎日お寺の賽銭を盗みに来る少女を陰からのぞき、なんとも言えぬ興奮を覚え、しまいには彼女の家まで後をつけ、玄関から赤い鼻緒の雪駄を持ってきてしまう。しかし、良心の呵責に耐えかね、また、危険を犯し、雪駄を戻しにいくという 性的には非常に初心な青年でした。

そんな青年に表(おもて)という名の詩を書く早熟な友ができる。表はカフェの女給をしているお玉さんという愛人を持ちながら、音楽会の合間に上流社会に属するお嬢さんを誘惑する手合いを私に実践してみせる。表に感化されたとは言いすぎかもしれないが、間もなく私は芸者遊びをするようになる。まだ十代である。芸者遊びは早すぎると思うのだが、それは今の感覚、この時代の初体験は玄人とが多かったのでしょうね。

その頃、私の投稿した詩が雑誌に載るようになり、ずっとお寺に引きこもっていた私が世に出ていくきっかけとなります。
一方、表は肺病を患い、お玉さんを気にかけながら死んでいきますが、表の最後を伝えるべくお玉さんに会いにいく私は、お玉さんもまた肺を患い死の床に伏していることを知ります。
芸者遊びで女を知った後なのですが、純粋なお玉さんの前では、性に目覚めた頃の私に戻ってしまう姿が、金沢という街と義父と合いみる茶の席の描写などとともに、非常に上品でしっとりとした味わい深い作品となっています。

 

2009-07-16