「千利休とその妻たち」三浦綾子 レビュー
千利休にまつわる書物は数多くありますが、これは小説として非常に面白かったです。
千利休は大阪 堺の大富豪商人でありながら、生涯 茶の道を追求し続けた偉大な茶人ですが、徳川秀吉の茶頭となったことから秀吉の右腕とも言われるほどになり、少なからず当時の政局にも影響を与えた人物です。
その最後は、石田三成らの陰謀で秀吉に切腹を命じられ、自決で70歳の生涯を閉じました。
切腹は武士のみに許された行為なので、利休の身分は武士階級だったことが伺えます。
このあたりのことは、今年のNHKの大河ドラマ「天地人」と時代が同じなので、どちらかといえば歴史、中でも戦国時代は苦手だった私でさえ、少しわかるようになっています。
歴史小説は、ある程度時代背景を調べてから読むと理解が深まりますよね。
余談ですが、大河ドラマの石田三成は小栗旬が見事に演じていて、実にかっこ良かったです。
石田三成の人となりも、妻夫木聡演じる主人公 直江兼続らとの絡みをみても、決して悪人ではないように描かれています。
でもこの小説の石田三成は、利休一族にとって最悪の人でした。
一体、三成の本当の姿はどちらなのでしょう。
学校ではどう教えているのでしょうか。等々。
歴史小説を1冊読んだけで、さらに知りたくなり、今更ですが、歴史を知ることの面白さに目覚めています。
さて、この小説では、利休の茶に対するきびしさが、ものすごい迫力で描かれているとともに、後妻のおりきをすべてにおいて完璧といえるほどすばらしい女性としています。
事実であれば、おりきはマリア様ですね。
実際、おりきはキリシタンの信者となり、後に利休も聖書の教えに感服し、茶の道と聖書(神)の教えは、相通じていると考えるようになります。
「利休切腹の本当の理由は、おりきによってキリシタンの信仰に開眼した利休が、みずからの手で創出した茶の湯の限界を、みずからの手で破壊しようとした、その覚悟にあった」そう考えてもよいのではないでしょうかと、解説の高野斗志美(としみ)さんが書いています。
日本において、初めてキリスト教が入ってきたのはこの時代で、茶人や大名の中にも熱心な信者となったものがいて、その信仰による結束力などに恐れた秀吉はキリシタン禁令を出したりもしました。
キリスト教信者の三浦綾子さんが利休とその妻たちを書いた思いが強く伝わってきます。
強くありながら、奥深く静かにしみてくる小説です。