「古 都」 川端 康成 レビュー
心身ともに危機の状態(執筆終了後東大病院に入り10日間意識不明に陥り、その間に肺炎と腎盂炎を患ったが本人は知らなかったとのこと)で、眠り薬でもうろうとしている中で書き進めたと後書きで書いておられますが、川端康成氏の晩年は、ひどく痩せて目だけがぎょろっとしている白髪頭のおじいさんを皆さんも思い浮かべるのではないでしょうか。
しかしながら、まだこの時は睡眠薬を絶とうと考えておられたようです。
作品はというと、「雪国」よりは理解しやすく、読後も爽やかです。
これは新聞連載という万人向けということもあったろうし、本に収めるということで書き直しがあったためかとも思われます。
解説の山本健吉さんが、「結局は京都の名所風俗図絵、年中行事絵巻を繰り広げるところが、この可憐な作品のひそやかな願いでもあったのかもしれぬ。」と書いておられますが、それはもうそうに違いないと思いました。
でも、生き違いになった双子の娘(どちらも可憐で素直、この上なく理想的な人柄)の出会いの面白さ。
そしてお互いを自分のこと以上に思いやり、また家族や回りへの気遣い、この無垢な妖精のような娘たちの運命にも惹きつけられました。
京都は神社仏閣が多いのでお祭りも多いのですね。
そしてその回りの自然も豊かに残されているところなんだと、あらためて思わずにはいられませんでした。
外国の方が古都を読み、京都に憧れるのもよくわかります。
これが書かれたのは、昭和35,6年と思われますが、その頃から半世紀近くが経とうとしています。今の京都でこのような作品は生まれることがあるのでしょうか。
京都は変わらずというのは、やはり夢かもしれませんね。
久しぶりに文学作品を読んだという気持ちになりました。
2008-02-09