「小さな恋の万葉集」上野誠 レビュー
2009年6月14日から1週間、当地の紀伊国屋書店で「万葉集 享受の世界」と題して、國學院大學所蔵の平安時代の写本等の展示会が開かれており、早速出かけてきました。
今回見ることができた最も古いものは、平安時代の「元暦校本万葉集断簡(有栖川切)と呼ばれているもので、これは丁寧に軸装されており、紙も軸もとても立派なもので、平安時代に使われていた文字、筆使いなどとともに感動しました。
ここで、万葉集についておさらいしてみます。
(高校古典の教科書、資料集より抜粋)
万葉集は現存する最古(1300年前)の歌集で、20巻に約4500首、数百年間にわたる歌が収められています。貴族や有名な歌人の歌ばかりではなく、庶民の歌も数多くあります。
1300年前(近江飛鳥時代~藤原宮時代~奈良時代)は、まだ仮名はできておらず、すべて漢字で書かれていました。印刷技術ができるまで1000年以上もの間、人の手で写しながら、現在まで受け継がれてきました。
主な歌人は
額田王(ぬかだのおおきみ)、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)、竹市黒人(たけいちのくろひと)、山部赤人(やまべのあかひと)、山上憶良(やまのうえのおくら)、高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)、大伴旅人(おおとものたびびと)、大伴家持(おおとものかやもち)、坂上郎女(さかがみのいらつめ)、笠女郎(かさのいらつめ)らで
雑歌、相聞歌、挽歌に分類され
五七調(二句切れ、四句切れ)で、助詞止めが最も多く、助動詞止めが助詞止めの半分、体言止め、連体詞止めが少なく、字あまりを気にせず
枕詞、序詞が多く、掛詞、縁語はほとんどありません。
また、作風は現実生活の感動を直線的に表現して直感的、具象的であり、情緒的なものだけでなく、現実生活に即した幅広い題材を豊富な用語で詠み上げています。
短歌を勉強している私にとって、万葉集は、まさに宝の山です。
上の「小さな恋の万葉集」には、万葉集の中の恋歌を集め、まず生き生きとした大胆な現代語訳(意訳)、書き下し文と奈良県飛鳥村の写真、そして直訳を載せています。
わかりやすく、とても綺麗な作りになっており、万葉集がいっそう身近に感じられます。
画像は昨日の展示会より 万葉集に出てくる花を生け花で表現したものです。代表的な歌とともにご覧ください。
【カキツバタと撫子】
<かきつばた>
かきつばた衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり
(かきつばた きぬにすりつけ ますらおのきそいかりする つきはきにけり)
(意訳)かきつばたを衣に擦り付けて ますらおが着飾って狩をするその月がきた
<なでしこ>
なでしこが花見るごとに娘子らが笑まひのにほひ思ほゆるかも
(なでしこが はなみるごとに おとめらが あまひのにおひ おもほゆるかも)
(意訳)なでしこの花を見るたびに あの娘子の笑顔の華やかさが思い出されることだ
【姫百合】
夏の野の繁みに咲ける姫百合の 知らえぬ 恋は苦しきものぞ
(意訳)夏の野の茂みにひっそりと咲いている姫百合のように、人に知られない恋は、苦しいことです
【楓とすすき】
<かへるで(楓)>
我が宿にもみつ蝦手見るごとに妹を懸けつつ恋ひぬ日はなし
(わがやどに もみつかへるで みるごとに いもをかけつつ こひぬひはなし)
(意訳)
わが家の庭に色づく楓をみるたびに あなたを心にかけて思わない日はありません
<すすき>
秋萩の花野の薄穂には出でず我が恋ひ渡る隠り妻はも
(あきはぎの はなののすすき ほにはいでず あがこひわたる こもりづまはも)
(意訳)
秋の花野のすすきのように表にはださず私が恋し続けるあの隠し妻は、ああ
2009-06-16