「草枕」夏目漱石 レビュー
智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
この「草枕」の冒頭は誰もが知るところ、そして日本人なら納得の文章だと思います。でもこの後に続く文章を知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。
住みにくさ高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、
詩が生まれて、画(え)が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向こう三軒両隣りにちらちらする唯の人である。
唯の人が作った人の世が住みにくからとて、越す国はあるまい。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりも猶(なお)住みにくかろう。
越すことのならぬ世が住みにくければ、住みにくいところをどれほどか、くつろげて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、ここに画家の使命が降(くだ)る。
あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊い。
ここまで読んだとき、私はこの「草枕」と夏目漱石にいまさらながら猛烈に興味を持ちました。
「草枕」
漱石が芸術と呼ぶもの(俳句、外国の詩、漢詩など)がいたるところに散りばめられていて、そのどれもが解説されていて、それがとても面白いんです。人物描写も実に味わい深いです。しばらくは、いつも側においておきたい1冊になりました。
2008-09-13