「こころ」夏目漱石 レビュー
川端康成の上をいく衝撃、非常に面白かったです。
「こころ」は高校生の時に読みました。
そして大学の文学の講義でもう一度読んでから、またかなりの年月が経ちました。
学生の頃、文中の「私」は私だったのに、今は「先生」が私になっていました。
この先生の長年の苦しみを理解できるような気持ちになるのは、私が年を重ねたからですね。
残念なことが一つ。この小説は男性の視点で書かれているので、お嬢さん(先生の妻)には最後まで先生の秘密を知らされませんでした。
これを先生(男)の究極の愛というのは、男の思い違いだと思うのです。
信念を曲げることなく、自分に誠実に生き抜こうとした時、傍らにいる女の気持ちになど深く思いが及ばない。男とうのは、こういう生き物なんですよね、昔から。
しかしこういうことを差し引いても、「誠実さ」とか「清らかさ」という言葉が甘く感じるほど、この小説は、人間のエゴイズムと倫理観の葛藤が見事としか言いようにないくらい見事に書かれていて、心に深く刺さりこんできます。
これもまた新聞連載小説だったとは驚きです。
当時の新聞が知識人を対象としていたものだということが伺えます。
夏目漱石は全て読みたいと思います。
2008-08-30