風の詩(うた)

ジェジュンとAB6IXを中心にK-POPの音楽レビューを書いています。読書レビューは過去記事です。

「早春スケッチブック」山田太一 レビュー

この題名を聞いてピンときた人、たぶんあなたは50代以上の方でしょう。そうこの作品は1983年にTVドラマ化された脚本です。

私は舞台や演劇関係には相当疎いので、脚本はチェーホフシェークスピアどころか、小学校の学芸会用の「夕鶴」以来読んだことがなかったので、たとえ巨匠 山田太一先生の作品とはいえ、はたして最後まで読めるのか見当もつきませんでした。
このドラマも見ていません。ただ話題性があったのでおぼろげながら内容を覚えていました。

そんな私がこの脚本の一話、いえ、ほんの数ページ読んだだけで、次々と場面が浮かんできて、まるでテレビでドラマを見ている錯覚に陥るほど、楽しめたのです。

話の内容をかいつまむと、信金に勤める常識的で平凡な夫(河原崎長一郎)と幼子を連れて結婚した妻(岩下志摩:昔は遊び人)、受験生になった長男(鶴見辰吾)と夫婦の間に生まれた中学生の妹の4人家族にある日、妻の元恋人(山崎勉:カメラマンで長男の父親)の彼女(樋口可南子)から病気で失明の危機にある山崎が鶴見に会いたがっている云々の連絡が入るところから始まります。

40代になっても若い頃と変わらず身勝手に正論をふりかざす山崎と必死で妻子と家庭を守ろうとする河原崎、うろたえる岩下志摩、突然実の父が現れ動揺し受験を失敗する鶴見、鶴見と父の恋人の樋口。最後は河原崎の家族4人と山崎、樋口、山崎の世話を買ってでた妹の学校のつっぱりの女の子と7人で食事をして歌う。二人の父はデュエットまでする。その後山崎は病院で静かに息を引きとる。

最後に鶴見「あるがままに、自然に生きるのではなく、無理して自分を越えようとする人間の魅力を忘れたくないと思った」


後書きに、こんな貴重な話が書いてありました。
このドラマは思ったほど視聴率が取れず、テレビ的には成功とはいかなかったが、山田太一さんが心から書きたいと思って書いた話だそうです。
そしてこのドラマは晩年の寺山修司が毎週欠かさず観ていて、放送日後に毎回山田さんに電話をかけてきて「おれは山崎だ」と言ったそうです。ラストで「山崎が死ぬこと」を山田さんはすまなそうに言い、ドラマが終わって1ケ月ちょっとで寺山も逝ったそうです。

 

 

2011-05-22