「猫の謎」村上春樹 レビュー
犬の謎の間違いじゃないかと思う方もいらっしゃるでしょうが、猫の謎というタイトルで間違いありません。
若い頃から好きな作家の1人に村上春樹さんがいます。
実は「ノルウェイの森」以降の作品は少し好みじゃなくなっているのですが、今日は村上さんの「猫の謎」という短いエッセイが面白かったので紹介したいと思います。
「前略十匹の猫がいればそこに十とおりの個性があり、十とおりの癖があり、十とおりの生き方がある。そんなの生きものなんだから当然じゃないかと言われればそれまでだけど、それでもじっとまぢかに見ているといろいろと不思議なことが多く、不思議だ不思議だと思いつつ猫を眺めて1日が暮れてしまったりする。
うちには11歳の雌シャムと4歳の雄のアビシニアンがいるが、性格の複雑さという見地からすれば年食ったシャムの方にやはり一日の長がある。
まず第1にこの猫はごはんをやってもすぐには口をつけない。どんなに腹がへっていても「ふん、ごはんか」という顔をしてプイと向こうに行き、しばらく尻尾をペロペロと舐めている。そしてしばらくしてほとぼりが冷めた頃にやってきて「まあ食うか」というかんじで食事をする。どうしてそんなことをいちいちやらなくちゃいけないのか僕には全然理解できない。
それからこの猫は寒い季節に布団の中に入ってくるとき、必ず最初に3回布団を出入りするという習慣がある。まず、布団に入り、横になり、しばらく考えてから、「どうも駄目だわね」という感じでスルッと外に出ていく。これが3回つづき、4回めにやっと落ちついてぐっすり眠るのである。
この儀式にだいたい10分から15分費やされる。どう考えてもこれは純粋な時間の消耗である。猫のほうだって手間だろうし、、(中略)
猫には猫なりの幼児体験があり、青春期の熱い思いがあり、挫折があり、葛藤があったのだろうか? そしてそのような過程を経て、そこに一個の猫としてのアイデンティティーが生じ、彼女は冬の夜に正確に3回布団を出入りするのだろうか?
猫についてはあまりにも多くのことが謎に包まれている」
これを読むと 猫に比べて犬はもう少し単純な生きものだなと思います。
特に子犬のうちは やることなすことの意味がわかってしまうので、子犬にアイデンティティーもなにもないに違いないと思うのですが、うたた寝しているママの鼻に突然噛みついてくるのはなぜなんだろうとか、夜になると狂ったように部屋を走りまわるのはなぜかしらと不思議に思うことはあります。
1ヶ月が人の1年にあたるという犬の幼児体験は短いものだよね。家のワンコの幼時期もあっという間に過ぎてしまったわけですが、ひたすら「お腹が減った」としか感じていなかったかもと思うとちょっと可哀想な気もしています。
しかもまだこの家族の順位付けがわかっていなさそうで、一番下は大学生の兄ちゃんだということははっきりしているけど、一番上はパパかママか、それともちょっと怖い中学生の兄ちゃんか、すんごく優しい高校生の兄ちゃんか決めかねると思っているに違いないです。
したがって自分の地位も不確定のまま6ヶ月目に突入して、ワンコながら熱い青春時代を迎えている模様です。結局家のワンコの紹介というオチでした
笑
2007-04-23