風の詩(うた)

ジェジュンとAB6IXを中心にK-POPの音楽レビューを書いています。読書レビューは過去記事です。

「仮面の告白」「宴のあと」三島由紀夫 レビュー

 

三島由紀夫が軍服を着て自衛隊のバルコニーで切腹自殺をしたとき、父が本棚から「憂国」を取り出してきたことを覚えています。「憂国」には軍服を着て切腹をしている男の挿絵がありました。
切腹自殺は、三島を時代錯誤の狂人のようにもしてしまったのでしょうが、あらためて作品を読むと、三島由紀夫は最後の日本文学作家ではないか、私はそう感じたりします。

三島は作品のなかで、日本語の語彙の豊かさ、美しさを存分に味あわせてくれます。それは川端康成にも引けをとりません。こんなにも日本語を知り尽くした人がいたことに感激すらおぼえます。


さて、「仮面の告白
これは言わずとしれた三島が同性愛者であるという自伝的小説です。
あの戦争中に少しでも狂気に陥らなかった若者がいるのでしょうか。自分の未来が考えられないとき、食べるのに必死であった者はまだ良かったのかもしれません。知識人は目の前の快楽に溺れることでしか、自分を保つすべがなかったのではないでしょうか。

三島は普通に結婚をし子どもも二人もうけています。作家としても成功し、病弱で貧弱だった身体も鍛えられ、いつしか筋肉質の体になっていました。
それでも三島は自決しました。昭和45年、高度経済成長の真っ只中で。

三島のような天才の頭の中は凡人には理解できないのが残念です。

 

「宴のあと」
これは川端康成を彷彿させる実に小説らしい小説で、非常に面白かったです。
当時、東京都知事選候補をモデルにしたことで「プライバシー裁判」を起こされ、文学的な価値より裁判で有名になった小説でした。

社会的現実を文学化したことで、三島の観察眼の鋭どさ、女性の本質まで見抜いていることに驚きました。


三島作品は、オレンジの背表紙の新潮文庫で持っています。数年に一度読み返す程度ですが、今回は読む順番がまずかったのか「仮面の告白」でど~んと重たくなり、それならばと「宴のあと」を読めば、以前読んだときより、女主人公のかづが自分の年に近く、やはり軽くは読めませんでした。

それだけ三島作品の偉大さに気づき慄いています。

さて、今回はこの2冊でやめておこうか、それとも「午後の曳航」や「潮騒」を読み、楽しみましょうか。

 

2010-01-03