風の詩(うた)

ジェジュンとAB6IXを中心にK-POPの音楽レビューを書いています。読書レビューは過去記事です。

「かすみ草のおねえさん」「短歌の旅」俵万智 レビュー

短歌を始めてからしばしば読み返している俵万智さんの初期のエッセイです。ところどころに置かれている短歌をより深く鑑賞することができます。

歌をこんなにも丁寧に噛み砕いて語ってくれる歌人は他にはいないので、短歌初心者の私にとって、とても有難い本です。


まずは「短歌の旅」

◎オーストラリア紀行より

お題「コアラ」


・珍獣の珍という字に誘われてコアラ見に行く多摩センターへ
・会いに来た動物園は休園日 コアラは今日も生きているのに
・閉ざされた心の森の奥深く漫画家してゆく私のコアラ
・星の夜は大和の星を見ているか南半球より運ばれて
・人間であることふいに寂しくてキオスクで買う「コアラのマーチ

 

上はオーストラリアを旅する前に詠んだものだそうです。
実際に見たこともないものを対象に歌を詠むなんて無理!と私なら尻込みするお題ですが、そういう甘ったれた思いが恥ずかしくなりました。

また、オーストラリア紀行の章を読むたびに、沖縄で国語教師をしているネットの知り合いが俳句や短歌を教える難しさを語っていたことを思い出します。私も短歌を作るようになってから本州との「季節感のずれ」をたびたび感じているからです。

 

その他
宮澤賢治の世界 ◎「五足の靴」を訪ねて ◎万葉のふるさとへ ◎あめりか紀行 ◎橘曙覧(たちばなあけみ)との出会い ◎秋篠寺を訪ねて ◎佐佐木信綱のふるさとへ ◎デンマーク紀行 ◎釧路湿原への旅

このように項目を見るだけでも興味がわいてきます。

万智さんが短歌が縁で出かけた旅の三分の一の楽しみ(この本)が私にとっても楽しみであり、短歌の気づきとなっています。

 

 


「かすみそ草のおねえさん」

万智さんのエッセイ「りんごの涙」を読んだときもそう思ったし
「かすみ草のおねえさん」も、題名がなんだかちょっと、、、と感じました。


でもあとがきに「人は悪意にはすぐ気づきますが、善意や好意にはなかなか気づかないもの。ささやかな優しさを、感じとる心を培っていきたい、と思います。それは、自分のなかに、ささやかな優しさを持ち続けたい、という思いでもあります」とあります。

はじめて行った花屋さんで、さりげなく「かすみ草」を添えてくれたおねえさんの優しさを忘れないようにという万智さんの思いが込められている題名なんですね。

真剣な人をおちょくる行為って、許せませんよね。
なのに私は、見かけだけで判断して切り捨ててきたものが沢山あり、チクっと胸が痛みます。
あとがきを読み反省しました。


後書きを書かれた江国香織さんはさすがに鋭いです。
万智さんをまわりの空気に侵食されない 色のきれいな弾力のあるゼリーみたいな人といい、優しく、しなやかで強く、思いのほか冷静な人だと書いています。
そして、昔好きだった人からの「オレだよ」という電話に無防備に「どこにいるの?」と返す万智さんを悪女、実に実に悪女でかなわないと思うと言っています。

その後、シングルマザーとなっても この弾力と透明さを失わずにプルンとすくっと立っている万智さんを目にするたびに、江国さんのこのあとがきも思いだしています。

 

2009-11-23