「ワイルド・ソウル」垣根涼介 レビュー
2003年に幻冬舎から出版されたロングベストセラーです。大藪春彦賞、吉川栄治賞、日本推理作家協会賞の三冠に輝く作品。
「ソウル」というのは韓国のソウルではなく「魂」の意味です。
幻冬舎という出版社は、いい作品を出しますよね。
いい作品に出会うと、私は作品よりも作家に興味がわくのですがこの作品は、主人公の魅力が作家の影を覆い尽くしてしまいました。
それは作家にとっては喜ばしいことではないでしょうか。
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この本は<ブラジル移民の話>です。
ブラジルへの移民制度は1908年に始まり、1993年に廃止されるまでおよそ30万人の日本人がブラジルに移住し、現在、約150万人の日系人が暮らしているそうです。
私の故郷の町(北海道の北のはずれ小さな町)からもブラジルに渡った家族があり、その中に母の友達もいたと聞かされていました。
その母の友達が一時帰国し、お土産に乾燥させたブラジルの花(ドライフラワーですね、当時はドライフラワーなどという言葉もなかったように思います)をもらったことがあり、それがとても珍しく、その時から私はブラジルという国や移民の話に関心を寄せるようになりました。
くしくも今年2008年はブラジル移民100周年、記念祭が盛大に行われているようです。
さて、私は2005年に森光子、野際陽子主演「ハルとナツ 届かなかった手紙」を観ましたが、ブラジル移民の労働の過酷さ、差別、病気、貧困、戦争時の窮状等々それは私の想像を超えたところにありました。
主人公ケイの両親もブラジル移民の家族でした。数軒の家族とともにブラジルの中でも最も奥地のジャングルに連れてゆかれ、そこに最後に残った家族となります。
ケイが5歳の時に両親も亡くなり、ケイはジャングルに一人取り残され、1年半後にケイの養父となる衛藤に発見されるまで、獣のように生きてきました。
衛藤もまたケイの両親らと共にこのジャングルに連れて来られたのですが、一緒に来た最愛の妻と義弟の死で、ジャングルから逃げ出します。
その時に恩を受けたのがケイの両親でした。
衛藤はその後、壮絶な生き様から身を起こし、いわば成功者となり、12年振りにジャングルを訪ねる所から、この物語が始まります。
上はほんのプロローグ。
この本は<日本政府への復讐>の話です。
本の帯には、
「日本国政府に復讐せよ!!
最上級の興奮と感動を描き込んだ、
爽快感溢れる奇跡のエンターテイメント!」
北方謙三さんは
「どうにもならない荒地にたたされた絶望感、孤独感を描きあげた筆力は、絶賛に値する。
ラテンの陽気さを突き抜けたなにかを、私に感じさせた」と書いています。
「ラテンの陽気さを突き抜けたなにか」が、キーワードですね。
この本は
<ラテン男と日本のテレビキャスター>のラブストーリーです。
ラストシーンは「世界の中心で愛を叫ぶ」のオーストラリアの乾いた大地に似ているなぁ。
あーでも主人公は根っからのブラジリアンですから(後はご想像にお任せします)
その他、麻薬の密輸や銃や車の話は、私は興味外ですが、興味がある方も沢山いらっしゃることでしょう。
悲惨な話の中に陽気な一途さとでもいうのか、それが溢れていて読後はなんとカラッと爽やかな気分にさせてくれます。
超お奨めの1冊です!!
2008-07-19