風の詩(うた)

ジェジュンとAB6IXを中心にK-POPの音楽レビューを書いています。読書レビューは過去記事です。

「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子 レビュー

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表紙がすてきな上に冒頭がこんな風にはじまります。

「真夜中はなぜこんなにもきれいなんだろうと思う。それはきっと、真夜中には、世界が半分になるからですよと、いつか三束(みつか)さんが言ったことを、わたしは真夜中を歩きながら思いだしている。光をかぞえる。夜のなかの、光をかぞえる。雨が降っているわけでもないのに濡れたようにふるえる信号機の赤。つらなる街灯。走り去ってゆく車のランプ。窓のあかり。帰ってきた人、あるいはこれからどこかへゆく人の手のなかの携帯電話。真夜中はなぜこんなにきれいなんですか。真夜中はどうしてこんなに輝いているんですか。どうして真夜中には、光しかないのですか。
 耳を満たすイヤホンから流れてくる音楽はわたしを満たして、それがすべてなってしまう。子守歌。ピアノのうつくしい子守歌。すてきな曲ですね。そうですね。ショパンでいちばんすきな曲です。冬子さんも気に入りましたか。ええ。まるで夜の呼吸のようです。溶かした光で鳴っているようです。
 昼間の大きな光が去って、残された半分がありったけのちからで光ってみせるから、真夜中の光はとくべつなんですよ。そうですね、三束さん。なんでもないのに、涙がでるほど、きれいです。」

 

ここまで読んだだけで、この作品が気に入っていっきに読みました、

しかしとても美しい序文なのに本文は美しいとは言い難ったです。

 でも、ヒロイン冬子のような人は案外いますね。現在の私も少しだけど似ている部分があるし、私の次男もちょっと似ています。

友達のひるちゃんも似ているところがあります。

そんな冬子っていったいどんな女かというと、お化粧やおしゃれとは無縁、会社では自己主張できず、イヤなこともイヤと言えない。おまけに彼氏はずーっといない。ある時、カルチャーセンターに入校して自分を変えようとするものの、出がけに飲みすぎて具合が悪くなり挫折する。こんな感じです、

たしかにこういう人を世間はちょっと痛い人、私が思うにこういう人は意外と多くいて、勝ち組負け組でいうと、負け組かもしれませんが、みんながみんな勝ち組になりたいと思っているわけではないと思うので、冬子はこのままでいいんじゃないかと思う。

仕事(本の校正)はきちっとできるし、自分の生活は自分で賄っている。それだけでも立派です。

冬子のような、おとなしくて目立たない存在の人にこんな風にやさしくスポットをあてている小説は新鮮に感じました。(2013-01-20 )