「帽子」・「冷たい夏、熱い夏」吉村昭 レビュー
「帽子」(短編)
吉村昭さんのデビューは短編小説で、実は短編小説がお好きだとどこかで読んだような気がするのですが、この短編集の後書きによると、生みの苦しみ、素材を探すご苦労が述べられています。
しかしながらどの作品も非常によく練られており、さすが吉村さんとうなってしまいます。
ただ時間がたつにつれそのほとんどの内容を忘れてしまいました。ただ表題の「帽子」だけは覚えています。
病気の妻が気にいる帽子を探す男の話です。妻のためにいくつもの帽子を買って帰るのですが、中々妻の気にいる帽子が見つからない。最後にキャプリンだったか、そんな名前の帽子に出会います。その帽子は妻もたいそう気にいったのですが、妻の命が、、。最後に帽子をかぶせた妻とドライブをします。
そんな静かな、寂しい話です。
「冷たい夏、熱い夏」(毎日芸術賞受賞作品)
これは吉村さんの二つ下の弟さんが50歳で癌になり、家族、親戚みんなで看取ったいわば看病、闘病記録のような長編小説です。
身近な人の実話であるだけに真に迫るものがありました。
誰にも起こりうる話かもしれませんが、その時の家族の心情や弟への思いなど、冷静に書き記し通した吉村さん、さすがです。
2010-09-19